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『親指シフト転向のススメ』

 2月2日から「親指シフト」で日本語の入力練習を始めた。まだまだ、ローマ字で入力していたときのスピードには達していない。

 10年以上も慣れ親しんだローマ字入力を捨て去るにはそれなりの葛藤があったが、今は変えて良かったと思っている。そればかりか、「親指シフトの使徒」と名乗り、機会あるごとにJISかなまたはローマ字入力から親指シフトへの転向を説いている。できれば、拙文を読んで「私も変えてみようかしら」という方が出てくればよいと、この場でも、「転向」のススメなる一文をものすることにした。

 「親指シフト」という入力方法があると知ったのはいつだったろうか。一昨年の全国要約筆記問題研究会京都大会のパソコン要約筆記部会に出たとき、講師の一人が親指シフトに触れた。そのときは特に関心を惹かれることもなく、通りすぎた。講師も、特にその方法を推奨するという雰囲気ではなかった。そもそも親指シフト専用のキーボードが入手困難なのだから、強力に推奨することもできかねたのだろう。

 去年は2回全国要約筆記問題研究会の全国大会に参加した。3月の東京でのパソコン要約筆記指導者養成講座、6月の高松市での全要研全国集会である。このときも、親指シフトは、日本語を入力するには最適な方法なので、もしこれから始めるなら、親指シフトを勧めると講義のなかで言われた。また、「マシンガンハマ」と異名をとる広島の浜本麻理さんや、大場美晴さんなど、パソコン要約筆記の現場で活躍している人たちは、親指シフトの人が多いと知った。親指シフトに対する認識は高まったが、まだ自分の問題としては捉えられなかった。ローマ字で入力するのになんら不便は感じていなかったし、英語を書く機会もけっこう多いので、両方をカバーするのはローマ字入力しかないと思ったのだ。

 親指シフトがいいらしいとわかっても、選択肢の中に入って来なかったのは、専用キーボードが手に入りにくいことも大いに関係する。ちなみに友人がノートパソコンを買うというのでつきあって行ってみた電気屋さんでも、「親指シフトのノートパソコン?ありません。」とあっさり言われてしまった。ノートパソコンに外付けで親指シフトのキーボードをつけて使うという方法もあるが、このキーボードも入手しにくい。前記電気屋さんで尋ねたところ、「取引がありません」とにべもなかった。

 というわけで、なんとなく、親指シフトは良さそうだとは思いつつも、変える気がなかった私が悩みに悩んだ末、転向を決意したのは、パソコン要約筆記で使うIPTalkというソフトのユーザーによるメーリングリストに参加してからだった。
 このソフトはパソコン要約筆記で2人書きするときに使われるスグレモノのソフトである。それまでのは、相手がどこまで打ったか見るには、相手のパソコン画面を見るしかなかったのである。それが、IPTalkでは、画面の下に2行窓が現れ、上の行に相手の入力中の文字が表示され、下の窓に自分の入力中の文字が表示される。漢字変換が正しいことを確認してから改行すると、大きい表示画面に転送される。つまり、見苦しい変換過程を見られずに済むという点でも、革新的なソフトである。

 月1回有志で続けているパソコン要約筆記の勉強会でもこのソフトを使って練習できるようにと、ソフトをインストールし、パソコン要約筆記者の参加するメーリングリストにも参加させていただいた。
 このリストの主要メンバーは、親指シフトの実行者が多く、ことあるごとに親指シフトの有利性が話題になった。メンバーの中に、それならと転向を試みる人がぼつぼつ出始め、その奮戦記が載るようになった。10月の福島での全難聴大会で言葉を交わして以来メールのやり取りをしている方も、転向したと聞いた。そこに来て私もちょっと心が動き始めた。

親指シフトのキーボード

 そこで、インターネットを使って「親指シフト」に関するデータを集め始めた。「親指シフト」とキーワードを入力すると、何十もの資料が見つかった。それを片っ端からダウンロードし、読んでみた。うーん。親指シフトとは、日本語を入力するために開発された、最良の入力方法であるらしい。
 昔は富士通から専用キーボードが発売されていたのだが、今はほとんど作られていないらしいことなどがわかった。キーボードだけを、親指シフト用に作られたものを、手持ちのパソコンに外付けでつければ、親指シフトで入力できることも知った。



 しかし、その外付けキーボードもなかなか手に入りにくいとあっては、いくら関心があってもはじめることができない。そこへ、パソコンはそのままで、ソフトを使うだけで、あたかもパソコンが親指シフト専用キーボードであるかのように使えるフリーソフトがあることを知った。その名も「親指ひゅんQ」というソフトで、無料でインターネットからダウンロードできた。ダウンロードして、赤いQマークのアイコンができても、まだ迷っていた。

 新しい入力方法に変えるときは、今までの入力方法は使わないこと、という鉄則が、毎日メール・ファクスを書き、仕事でもワープロを使う私にはとても従いがたいことに思えたのだ。新しい方法で練習中に、全然ローマ字入力を使わないでいることなんて想像外だった。

 新しいことをはじめるには、年が変わる1月という月はうってつけだ。なんとか1月中にははじめたいものだと思ってはいたが、結局、「親指ひゅんQ」を自分のパソコンの入れたのは、1月の30日。なんとか、年の変わった新しい月に新しいことに挑戦するというゲンかつぎ(?)には間に合ったことになる。

 やっとその「親指ひゅんQ」というソフトを使って練習をはじめたのが2月2日。一緒にダウンロードした練習問題を見ながら、ひとつひとつ、キーを打つのであるが、あくまで専用キーボードならぬ、ソフトを使って動かすのだから、キーボードに印字されている文字とはまるで別なのだ。JISなら「ちとしはきくまのりれ」という中段の配列が、親指シフトでは「うしてけせはときいん」となる。プリントした親指シフトの配列表を見ながら、ほんとにはじめてしまってよかったのだろうか、果たしたマスターできるものだろうかと不安に駆られた。

 ローマ字入力でいっこう不便を感じていなかったのに、メール1通も書けなくなってしまったのだ。ダウンロードした練習問題は、順を追って上達するようによく考えられている。ほんとはその通りに進んでいくのがいちばんだろう。しかし、私は名うての手紙魔。最盛期には月100通、年に1000通の手紙・葉書を書きまくっていたのだ。今は、メール・ファクスになってしまって、めったに手紙・葉書を書くこともなくなってしまったが、手紙魔は健在である。手紙がメール・ファクスになっただけである。メール友達に親指シフトをマスターするまで書かないでいることなんたできそうもない。

 で、わたしのとった方法は、実戦。つまり、大体の配列を覚えた時点で、直接メールを書くことで、練習も兼ねることにしたのだ。かくて、親指シフトで練習をはじめたつぎの日には、かなだけのメールを出していた。
 4行ほどの短いメールなのにどれほど苦労したことか! しかも、2通目のメールは漢字変換までしてしまった。ほんとは、慣れるまで漢字変換はしないことになっているのである。ここでもまた鉄則を破ってしまったことになる。というのも、かなだけのメールは非常に読みにくいからである。日本語は漢字かな混じりでこそ、よく理解できるものであり、ひらがなだけ、カタカナだけの文章がいかに読みにくいかは、皆さんもよくおわかりだろう。

 ということで、ヒトサマに読んでもらうのに、ひらがなだけでは読みにくかろうという配慮から、漢字変換したメールを出し始めた。3〜4行ですむメールという形式がこれほどありがたいものとは思わなかった。
 ファクスは、パソコンからダイレクトに送信しているのだが、こちらはメールと違ってA4の用紙1枚分くらいは書かねばならない。メールよりは、分量的に多くなり、1通書くのに大変な時間を要したが、ログをみたら、2月の5日にははじめての親指シフトによるファクスを出している。字数が少なくてもすむように、フォントは思いきり大きいのを使った。(^^; 基本練習が大事なのはわかるし、ひまがあれば、地味な基本練習をしようと思うのだが、実戦練習と名づけたこの方法でもうしばらくやってみようと思っている。

 私が全然不便を感じずに慣れ親しんできたローマ字入力を捨て去る決心をしたのは(IPTalkメーリングリストの投稿を読んで心揺らぎ始めたころから数えると丸々2ヶ月は悩んだ)、やはりローマ字入力は日本語入力にはふさわしい方法ではないのではないかということだった。

 ご存じのように、ローマ字入力では、日本語を一度「は→h+a」のように分解しなくてはならない。長年慣れ親しんでほとんど無意識にこの変換をやっているとはいえ、不自然であることに変わりはない。無意識下でもこのような変換をやりつづけることは、脳に負担をかけているに違いないのである。その我が脳に余計な負担をかけたくないというのがまずあった。

 ローマ字入力で打ってるところをみるとわかると思うが、ものすごく早い。私も何度も早いねえと感心されたことがある。しかし、実はちっとも早くないのである。なぜなら、上記のように日本語の一文字を打つのに倍もキーを打たなければならないから。優美に泳いでいるように見える白鳥が水面下では、忙しく足を動かしているようなものである。

 それが親指シフトなら、全部の音をひとつのキーで打てるのだ。しかも、濁音、半濁音、拗音、促音まで、親指との同時打鍵で打ててしまう。殺し文句は、親指シフトなら、「指がしゃべる、指が歌う」という感覚を得られる!これは、魅力的な惹句だ。試してみる価値があるのではないか。
運指と思考が一体となる?いつも不自然さがつきまとうローマ字入力では想像もできないことが可能になる?未知の扉が目の前にある。戸を押して入って新しい世界をのぞいてみよう。と決意してから道を進みだしたからには、突き進んじゃうのが私である。

 最初のうちこそメール1通書くのに、へとへとになって、ローマ字だったら、すいすい書けるのにと思ったこともあったが、いくらまだろっこしくても、ローマ字は使わないようにした。
 親指シフトに転向して10日くらいで、ボランティアグループの集まりで記録をパソコンでとるように頼まれた。どうしようと思ったが、ローマ字入力はしないと決めたので、できるところまでと思って親指シフトでやってみた。結果としてなんとかできてしまった。

 スピードは遅いのだが、一文字一打鍵だから、なんとかなったのである。アタマの中で例の分解作業をやらないですむせいか、疲労は感じなかった。
 疲労が少ないというのも、親指シフトの特色のひとつである。JIS入力と違って、指が届きやすい真ん中の3段で全部の文字を入力できるので、ホームポジションが保持しやすいのである。JISでは、数字キーにまで文字が割り当てられているので、ホームポジションが保持しにくくなってしまうのだ。

 まだ親指シフトに転向して1ヶ月弱だから、「指が歌う、指がしゃべる」段階には残念ながら達してはいないのだが、キーボードと一体化した境地に達することが私の当面の目標となった。自分ばかりか、できるだけ多くの人にこのすぐれた日本語入力方法である親指シフトを勧めようと自ら「親指の使徒」と名乗っている。

  来る11日〜12日は、東京でパソコン要約筆記指導者養成講座があるのだが、そのときはパソコンを持参し、実際に親指シフトのデモをして、「転向のススメ」をしてこようと思っている。

 皆さんの中で、ローマ字あるいはJISかなから、親指シフトにしてみようという方がおられましたら、いつでも私に言ってください。「親指ひゅんQ」ソフトをインストールしてあげます。練習問題もいっしょに。私といっしょに快適な日本語入力の世界へ旅立ちましょう!!

 以上は、要約筆記「麦の会」第20号会報(2000年3月発行)に書いた原稿です。要約筆記者のくせにいつも文章が長くなってしまいます。簡潔に短くとは思うのですが。特に紙の上でなくパソコンの画面上で読むのはあまり長すぎるのは見にくいですね。すみません。


 上記拙文を読んでくださった小森健太郎さんという方から、上の書き方では誤解を招くので、親指シフトのノートパソコンは手にはいるし、専用キーボードも入手可である旨書き添えて欲しいとの申し入れがありました(2001年2月24日)。次ページで、詳述しますので読んでください。